松戸の里山活動のココが凄い!!
「つながる」と「支え合う」で育まれてきた「みどりの市民力」
緑のネットワーク・まつど副代表/松戸市緑推進委員 高橋盛男
「関さんの森を育む会」を原点とすれば、松戸の里山活動はすでに30年近い歳月が経ている。最近あらたに里山活動に関わり始めた方には、そのおいたちを知らない方も多いのではないだろうか。そこで、これまで松戸の里山活動がどのように展開してきたのかを少し整理し、ふり返ってみたい。
2000年、一気に動きだした松戸の里やま保全
それまでバラバラだったものが、一気に同じ方向に動き出すことがある。
松戸の里山活動でいえば「緑のネットワーク・まつど(通称、緑ネット)」が発足した2000年前後がその時期にあたる。緑ネットが生まれる前、松戸の樹林地(または緑地)保護を目的に掲げて活動していた団体は4団体ほどしかなかった。発足が古いほうから挙げると「千駄堀を守る会」「江戸川の自然環境を考える会」「関さんの森を育む会」「松戸の景観を考える実行委員会」となる。
このうち、市民団体が直接に森の管理活動をしているのは「関さんの森を育む会」の1団体のみだった。
同会を中心として「千駄堀を守る会」「江戸川の自然環境を考える会」など7団体の参加でスタートしたのが緑ネットである。
背景に、関さんの森にかかわる都市計画道路の問題もあったのだが、松戸の緑をこれ以上減らさず、残していこうというのが発足の目的だった。
同じ年に「関さんの森を育む会」の会員有志が「金ケ作の森を育む会」を発足させていた。関さんの森のように、市民が民有林を世話する団体を増やしたい、という思いからだった。金ケ作の森は、里やま応援団・三樹の会が現在活動している三吉の森である。一方、当時の行政の動きは、次のようになる。
1998年に「松戸市緑の基本計画」が策定され、2000年に全面改定された「松戸市緑の条例」が施行された。
そして、同じ年にこの条例に基づいて「松戸市緑推進委員会」が設置される。また、樹林地や街路樹の保全を主務とする「みどりと花の課」が誕生したのもこの年だ。
さらに、2003年には、市内の山林所有者による「ふるさと森の会」も発足する。こんなことを言うと怒られるかもしれないけれど、行政にしては実に素早い施策の遂行である。
そして2003年、緑推進委員会とみどりと花の課の協働開催で「里やまボランティア 入門講座」が始まり、第1期の修了者により「里やま応援団 一起の会」が誕生する。
こうして、松戸の里山活動がどんどん成長していくのだが、このようなかたちで入門講座、そして里やま応援団が誕生したことは、当時としては実に画期的なことだった。
松戸市における「市民と行政の協働」の先行事例に
里やま応援団は「ボランティア入門講座」から生まれ、入門講座は緑推進委員会の樹林地部会から生まれた。当時、第2期にあたる緑推進委員会には、緑ネットのメンバーである渋谷孝子さんと私が市民公募委員として在籍していた。
樹林地部会は、市内の樹林地保全の方策を考えるワーキンググルーブだ。行政が設置する諮問委員会で、実践をともなう部会活動が展開されるのもあまり例がない。
入門講座のアイデアと基本的な考え方は、渋谷さんによるものだ。
それを部会メンバーでたたき上げた。
ちなみに、のちにみどりと花の課の課長を務める島村宏之さんが、事務局として部会を担当していた。今でこそ「市民と行政の協働」とか「官民パートナーシップ」という言葉が、ふつうに聞かれるようになったが、当時は言葉が先行するだけで、実態はなきに等しかった。
だが、入門講座の企画と実施については、委員会の部会ということもあり、両者が対等の立場で協議を進めることができた。
今では何ということもないように思えるかもしれない。
けれど、画期的なのはこの部分。のちに入門講座を毎年続けて開催していくうえで、この経緯がとても重要な意味を持つ。市民と行政の協働には、次のようなメリットがあるからだ。
- 市民活動団体は行政を後ろ盾として「信用」を得られる。
- 行政は市民の自由闊達な発想と行動力を施策に導入できる。
- 一般市民の多くにとって行政部署は十把一からげで「市役所」だが、市民との協働により、松戸の緑政とみどりと花の課の取り組みが見えやすくなる。
当時、松戸市において「市民と行政の協働」はまだそれほど一般化していなかった。
2007(平成19)年に「松戸市協働のまちづくり条例」が施行されるが、この「里やまボランティア入門講座」に始まる松戸の里山活動は「協働」の先行事例のひとつとなった。
画期的な里山活動ネットワークの誕生
委員会と課の共催で始まった講座だが、組織的な立場上、諮問委員会である緑推進委員会が同じかたちで講座を継続してはいけない。そのため翌年からは、3者協働で推進することになった。
下の図にあるのがその運営形態である。
今でいう、入門講座の準備会を「協議の場」として、関わる組織がそれぞれの得意とするところを持ち寄り、実施していくかたちだ。私は個人的にこれを「持ち寄り型パートナーシップ」と呼んでいるが、それが今日まで踏襲されているのもすごいことだ。
さらに画期的なのは、2008年に「里やま応援団連絡会」ができたことだ。
入門講座の修了者が団体を組織し、それぞれがフィールドを持つようになるのが松戸の里山活動の特色だが、それぞれの団体が独立性を保ちながら連携する、緩やかなネットワークができたのだ。当事者たちがどれほど自覚しているかはわからないが、このようなネットワークが自主的につくられたことが、当時のこの国の市民活動ではかなり珍しいケースだったのである。
同じ目的を持つ者が「つながり合うこと」「互いに支え合うこと」が大切だという意識がなければ、このようなネットワークは生まれない。里やま応援団の諸氏が誇りとしてよいところだ。
松戸の里山活動のすごさとこれから
行政との連携も含む里山活動ネットワークを基盤として、根木内歴史公園に公園ボランティアが導入され、ステップアップ講座が始まり、「オープンフォレストin松戸」が生まれる。そんな経緯を踏まえると、松戸の里山活動のすごさは次のようなところにあると思う。
- 活動対象とする森が主に民有林である。
- オリジナルの入門講座プログラムを持っている。
- 行政と連携して活動している。
- 里山活動団体がネットワークを形成している。
- ネットワークをベースに新たなことに挑んでいる。
これらの中で、1.の民有林を主な対象にしている里山活動は、都市樹林の保全に限れば全国的に見てもまず例がない。これも松戸が他に自慢できるところだ。
さて、順風満帆な市民活動など世の中にない。多聞にもれず、松戸の里山活動もさまざまな課題を抱えている。このところ、毎期の緑推進委員会で話題になることのひとつに、関連する団体や行政も含め、ここまで広まりをみせている里山活動を包括的に把握でき、相互に支援し合えるような仕組みが、里山活動の安定した継続に必要なのではないかというものがある。
松戸市は2022年(令和4年)、これまでの基本計画を全面改訂し、新たな「松戸市みどりの基本計画」を策定した。その改訂作業にあたって、上記のような仕組みづくりを進める手がかりを探るため、委員会内に「みどりのサロン部会」を立ち上げた。
どういう仕組みが好ましいのか、またそれを運用する体制をどう考えるか。先の改訂版「みどりの基本計画」にそのイメージが盛り込まれている。
だが、行政計画に記載されたからと言って、それが実現するわけではない。実際にその仕組みをどう具現化していかの議論は、今も同部会で議論されている。
松戸の里山活動のおいたちや特徴・素晴らしい点などを再認識してもらえたら、また上記のような取り組みが続いていることを知ってほしいと思って本稿を記し、2024年2月に補筆修正を加えた。
松戸の緑を愛する皆さまにぜひご助力いただき、「松戸市みどりの基本計画」に描いた「みどりの市民力」をより強化し、安定して継続できる仕組みを実現していければと期待してやまない。